他社の成功を真似ても柳の下にドジョウは二匹とはいないようです。世の中では、アイデア商品で成功する方法と作る技術で成功する方法があります。しかし、いずれも自社の中で培った資源を生かすのが成功の秘訣のようです。でもその資源が無かったときの取り組むよい方法について考えてみましょう。
まず自社に何が欠けている自覚する目が必要です。
製造技術に自信がある企業、例えば、金型製造技術で長年生計を立てている企業は、小企業に大変多いと思います。そこから一歩先に踏み出すために何が必要か見出した企業がありました。
偶然見つかった抜き勾配ゼロのアイデアを商品化しようと奮闘したが、一つも成功しない。その時、救ってくれたのが、金型を作る技術ではなく、金型を使って、ダイキャストを作る技術でした。これが、ご紹介する成功事例の一つです。当然ダイキャスト製造技術は、自社に無いので、知り合いの技術者に協力を求め、一緒に手を組んで、成功を掴んだのです。
製造業で常に求められる顧客の要求事項は、普通はコストダウン一辺倒です。もし、顧客が自社で、必須の製造工程が一つ省くことができることを知れば、顧客は二も無くこのアルミダイキャスト製造会社に注文をするでしょう。こうした発想を実際の結果で示すことは、実際大変難しいことです。それだけに成功したら、注文は、うなぎのぼりとなります。ただし、この会社は、秘密が外部に漏れないよう金型とアルミダイキャストを一貫して生産するしたたかさを備えていること、カタログにもホームページにも特殊な製造技術を公開していないところに注意を払う必要があります。
しかも、この会社では、自らアイデアを捻出したのでなく、人から譲り受けたところに私は、何方でもチャンスを掴むことができるヒントを得たのです。
ここでほしいのは、自分はこれでよいのだと決めてかからないこと、自らを変化させることができる柔軟性と粘り強い継続性を兼ね備えてほしいと思っています。
画期的なアイデアと努力で開発した新商品が売れ始めたとき、事業家は「しめた!」と思うでしょう。でもこの売れ始めた流れが続くことは、めったに無いのです。だからこそ大ヒットして、成功した企業は数少なく、そのため有名になることを覚えておきましょう。
私の知り合いに今は引退していますが、600以上の特許を出し、発明だけで40年間生計を立ててきた方がいます。その方に面談して、「今振り返ってみて、特許は、事業に役立ちましたか?」と聞きました。その返事は、「ほとんどの発明は、応用特許ではなく、基本特許だった。しかし、申請した全ての特許がコピーされて、自分の商品とはなりませんでした。特許戦略は、失敗でした」とおっしゃいました。弁理士も使い、弁護士も使ってでもです。そこに一つの法則がありました。技術を公開することで、誰でも類似品を作るアイデアを得られたこと。特許は買うものではなく、盗むものであると日本の企業は考えいること(相手が大手だとリスクを伴うので躊躇しますが)
この発明家が最後に残った大事な発明と思っている商品があります。それは、環境の温度に左右されずに一定の温度を保ち、体の炎症に効果のあるサンパックいう商品です。ちなみにこの商品は、特許申請をしませんでした。
化学物質の場合、素材と製造技術は公開しないと容易には分析できないようです。
健康器具サンパック(図1)
この方法で、企業秘密を守っており、発明から20年経っても類似品は出ていないようです。
しかし、機械製品などは、見れば、構造が分ってしまいます。特に大衆を相手にした商品では、ノウハウを隠すことはできないでしょう。
しかも、一度「売れる」という実績と評判が広まったとき、大企業はしっかりとそのチャンスをとらえて、資金力と技術力に物を言わせて、一気に参入します。
多くの大企業が、売れ始めた商品を見つけるために待機しているのです。
マスコミは利用するな
新商品を開発した企業は、マスメディアを使って、一気に販路を拡大したがるものです。
しかし、これはとても危険な賭けです。私の訪問した成功企業では、いずれも深く潜行して、むしろ誰にも知られずに優れた商品を顧客に提供していました。
マスメディアに公表して、顧客を集めなければならない事業は、大衆を相手にした商品が主体となるでしょう。しかし、大衆商品は、売れなければ、安全ですが、売れれば、瞬く間に大企業に取り込まれてしまうのです。これは大衆商品を扱う企業に限りません。どこにその差があるでしょうか。一番大きな差は、商品の安全や品質を保証する基礎的データが中小企業には、不足しているからです。このことは、その後の拡販で致命的欠陥となってきます。過って、カンキョウという空気清浄機のベンチャー企業がありました。売り出して、瞬く間に市場を占有し、180人規模の中堅企業に育ち、社長は、本まで出版して、得意げにその手法と成功のプロセスを紹介していました。しかし、マスメディアにうたい文句であった空気中の雑菌を焼き殺す滅菌機能が全くでたらめであると訴えられ、自伝の本が売れ始めたときに、あっという間に倒産してしまいました。基礎的技術データも確固たる独占特許もなく、ほぼ自滅と言っていい状況でした。
マスコミに宣伝される恐ろしさは、この事例からもおわかりいただけると思います。
誰でも、世間に広く認められたいと思うものですが、目立っても、よいことばかりではありません。
目立たなければ、大手企業から商品をコピーされる危険もなければ、同業他社から妨害を受けることもありません。
目立たないということは、実はよいことばかりなのです。
小さく、目立たず、時間をかけて、いつの間にかナンバーワンになっている。そうした手順を身に付けてほしいものです。
顧客満足度を上げる手法は、隣近所とうまくやっていくのと少し似ています。
第一に迷惑をかけない。相手の身になって、多少自分を犠牲にしてでも親切にする。そして、できれば、家の中をいつもきれいにして、訪問者に気持ちよく過ごしていただく気配りがあれば、言うこと無しです。
私の訪問するある企業は、商品が優れているだけではなく、業者に対しても顧客に対しても優れた対応能力を備えています。
フイルムをカットして、巻き取るだけのスリッターという特殊な産業機械を製造している企業に、最初に訪問したときは、とてもきれいな工場でしたが、よく実態を見てみるといつも部品の納期遅れで苦しんでいました。顧客には言い訳できないので、いつも出荷作業は土日や徹夜で、対応していました。こんな生産で顧客は満足しているのだろうかと疑問に思い、顧客苦情の情報を取らせるようにしました。すると苦情が多いのに驚かされました。会社方針や顧客対応の窓口は、しっかりしているにもかかわらず、今日必要な部品を識別して、次の工程に送り込むシステムが不完全で、対応しきれていなかったのです。その時は、管理者は「中小企業では、生産管理とか現場責任者とか仕事をしっかり区分することなんかできない。何でも屋でなくては。中小企業のリーダーは務まらない。」と決めてかかっていました。そこで生産管理から発注された部品に全てタグを付けて回すこと、組立ては、今必要なものをユニット毎に明確にしたリストを作り、それに基づいて、受け取る仕組みを提唱しました。具体化するのに1年かかりましたがその結果、迷子の部品はなくなり部品を知らない人でも必要な部品を棚から持ってきたり、必要な部品を申し出ることができるようになりました。団子生産が消え、製造クレームは見る間に少なくなっていきました。製造業では、顧客に具体的に応えるためのシステムを備えないと効率よく顧客に安心感を与えることはできないのです。
「いまはハイテクの時代だ」といわれます。IT経営者たちの成功を見て、自分も…と夢見る経営者たちも多いことでしょう。IT産業は、毎日めまぐるしい競争の社会です。一見成功している企業でも、法律すれすれの綱渡りと非常に大きなリスクをバックに抱えています。
一方、ローテク産業にある商品寿命は非常に長いのです。このことを意識していない人が多いと思われます。
日本で、いや世界中で成功し続けている多くの企業が、ハイテク産業ではなく、50年も昔から存在するローテク産業分野であることを知っていただければと思っています。
時代の先端をいっていると多くの方が信じている自動車産業ですら、ネジ、ボディといった車体の構成要素のほとんどは、ローテク産業です。こうした基礎になる産業は、たぶん永久にニーズは変わらないでしょう。
たとえば、車の車体内部にある枠組みや、ボルトの表面などに使われている黒い色をした表面処理にパーカーライジングという技術があるのをご存知でしょうか。これは、防錆加工技術のひとつで、リン酸塩化成処理皮膜処理を行なって、錆を防止する技術です。
一見すると、塗料が塗られているようですが、そうではありません。
このパーカーライジングの技術は、100年以上前に海外で開発されたものですが、技術的にはほとんど変化していません。まさに、ローテク産業のひとつです。
しかし、金属の熱処理を行なうために必要な薬品と、技術に少しずつ改良を重ねていくことで、パーカーライジング社は、競合他社が追いつくことができない商品をつくりあげました。この分野でのゆるぎないトップ企業です。
ここで扱うローテク産業とは、商品寿命が長く、何年経っても機能がほとんど変化しない工学的には完成した機械要素から成り立つものです。しかも最新のハイテク技術と仲よく融合している産業を示します。
こうした商品の大部分は、戦後どころか戦前から変わらない技術でできています。
そして、基本的な仕様はほとんど変化せず、新製品を開発するスピードも必要とされません。少しずつ改良を加えて、マイナーチェンジを続ければよいのです。
つまり、数十年にわたり、わずかずつ改良が加えられ、膨大な改良ノウハウの蓄積がなされた商品です。ただし、そのままでは、付加価値が大変低い。このことが、中小企業を悩ましています。どのように差別化するか。成功は偶然の場合もあります。また技術的にに成功した企業もあります。例えば、通常は、歯車減速装置で、ウオームとウオームホイールの組み合わせで、数十分の1に減速する装置がありますが、ほとんど磨耗が発生しない組み合わせを発明し、30年経っても誰も競争相手が勝てない企業もあります。
そして、何十年経っても仕様がほとんど変わらないローテク産業ほど、価格や制度、品質・納期なども含めて、差別化に成功すると長期安定のメーカーとなることができる可能性があります。
表面処理技術の中でも特に地味で、誰も知らない競争のない世界があります。
その技術の名前を「溶射」と言います。
図2・2溶射技術
この技術が無くてはならないものに道路の電光表示板があります。この表示板は海岸道路でも10年絶対に錆びない処置を要求され、塗装の前に表面に亜鉛が被覆されています。この被覆を行うには、亜鉛用材を高温で溶かし、塗装のようにガンで、吹付けて、表面処理を行うのです。絶対剥離が許されない航空機の表面処理にも使われます。
ヨーロッパで開発されて、70年以上経ちます。地味で、厳しい作業が必要ですが、特に高度な技術を必要とするわけでもありません。誰も注目しないので、不況も無く、競争も無く、それほど努力をしないでも生き残ってきたのです。ただ、私は、この技術に最新の制御機器やコントロール装置を組み込めば、これまでにない特殊な表面処理技術が生まれる可能性があるように思えます。
なぜなら、厳しい高温に耐える部品やほとんど磨耗しない金属、摩擦がほとんどない金属等に普通の金属を生まれ変わらす(表面改質)ことができるからです。欠点は手作業で行う一品料理で、量産製品と比べて、極めて高くつくのです。コストダウンの改良サイクルが働いていないのです。余りにも努力をしないでも生きて来れた幸せな環境のために進化しなかったのかも知れませんね。
②商品の開発方法
新商品の市場調査方法
新商品開発に成功するためには、いきなり開発究したりするわけではなく、商品企画のシステムを導入する必要があります。何も無いところから、いくら技術があっても開発に成功するはずがありません。そこには、企画のプロセスを組み込む必要があるでしょう。その第1段階が、市場調査です。
まず、特許出願を見て競合相手の有無を確かめてみましょう。
実は、私は特許戦略は、中小企業には無理ではないかと思っています。しかし、それでも機械装置のように見れば理解できてしまう商品では、心臓部は、画期的な機構を採用した場合は、特許が申請されていなければ、即座に類似品が出回ります。
また、有望な商品であれば、必ずコンペティター(競合他社)の存在があります。
自分が開発するテーマが決まったら、その分野のコンペティターの存在を特許出願で検索するのが効率的でしょう。特許が集中している分野はすでに成熟しており、成立特許ゼロ件の分野では市場が存在しないと考えるのが早道でしょう。
成功の秘訣は、小さな市場を狙うこと。そして、中小零細企業が多い市場をターゲットにすることにあります。自分と同じアイデアをもつ競合相手が、もし中小企業の中でまだ目立ない存在だとしたら、大いに成功する可能性があるといえるのです。歴史は浅く、技術的は単純で不完全、誰も注目していない商品であればあるほど、成功の可能性は高いでしょう。
「そもそも市場(顧客ニーズ)がない場合」については、私の失敗例をあげることができます。
私は、会社に勤めていたころ、工作機械づくりの中で、誰も手をつけない技術を捜し続けていました。そして、ある日、加工面を劣化させる振動の問題にぶつかったのです。振動の問題は、解決することがこの上なくむずかしく、20年前には、工作機械分野では科学的に解明することに誰も着手していませんでした。ですから、誰も手をつけていない振動問題に取り組むことは画期的製品開発に繋がると考えたのです。15年間継続して取り組むことで、ほとんどの振動問題を解決することができました。しかし、独立後研削盤の自動バランサーを開発しましたが、結局1台も売れませんでした。新しい商品開発には結びつかなかったのです。振動問題は、商品開発に付随して生じるトラブルを示し、商品そのものとして、付加価値を生み出すものではなかったのです。 敗因は、実際に振動問題で困っている顧客の顔を見ずに、市場が求めていると違いしていたことにありました。この商品は、自分の足で、研削現場を歩かずに開発を進めてしまいました。つまり、本当のニーズを調べつくしていないし、その商品を求めている顧客の顔が見えていなかったのです。
この反省から、次の商品開発では、顧客を自ら捜し、顧客の存在を確かめ、問い合わせや提案を行ない、製品企画を行なうようにしました。
買うときの一瞬は、一時のヒットにすぎません。いずれ買い替えの時期がきたときに、その顧客が、もう一度、自社の商品を選んでくれるのか。
1回の購入だけでは、成功といえません。2回目の購入があって、はじめて商品開発が成功したといえるのです。
商品によっては、もともとリピートオーダー品とならないものがあるので一概には言えませんが、評価されればニーズがあるところで複数の購入がないときは、どこかに問題が生じていると判断したほうがよいでしょう。
リピートオーダーがない場合には、おもに次のような原因が考えられます。
① 利用価値と価格のバランスが取れていないもの
客が良い製品だけどちょっと価格がねえ!と言われることが多いと思います。この場合、どうしても顧客の求める価格にならない場合が多い。中国など低賃金によって、価格を抑える場合もありますが、適正なコストで、製造できないという技術力によるところが大きい場合が多いようです。
② 操作が煩雑であるなど、使いにくい商品だった場合
どんなに性能がよくても、使い勝手が悪いと、リピートオーダーが来ることはありません。顧客が商品を使うのをあきらめてしまうのが、もっとも怖いことです。
使い勝手の良さ・悪さというのは、ほんのちょっとした違いで、もたらされます。顧客の立場に立って考えることで、解消しましょう。
③マシンの問題点を解決できなかったとき
最初に使い始めたときすばらしいと思っても、問題点に遭遇すれば、顧客はメーカーに改善を要求します。そのとき、メーカーがその問題を解決できなければ、顧客は別のもっとよい商品を探します。その結果、商品は消滅してしまいます。
しかし、マシンの基本がよければ、問題点の改善活動は実りあるものになるはずです。
リピートオーダーをもらえるよい商品をつくりあげるためには、賞賛→落胆→感動→販売増加→利益増加という長い行程に、メーカーは投資と執念で耐え抜かなければなりません。その先は市場独占の世界が広がっているかもしれないのですから。
工業の世界では、一般には利益を生み出す性能を求められ、買っていただいた商品がしっかり利益を生んでくれることこそ、リピートオーダーにつながります。
商品を購入することで、顧客はどれだけの利益を得られるのか、そのことに真剣に取り組むことが、結局事業の成功につながります。
生産ラインに投入される商品であれば生産性向上、具体的には工程短縮であり、不良率低減が求められることになります。不良率が大幅に削減されれば、利益を数値データとして顧客に明確に示すことができます。そうなれば実績を示すことで、営業活動も非常にやりやすくなるのです。
一般に、生産財商品であれば、直接数値で利益が算出され、顧客にとってのよい指標になります。逆にメーカーからすれば、非常に正確に出される数値として厳粛に受け止めねばなりません。
顧客の求める究極のコストダウンとは、自社だけのコストダウンではなく、顧客の利益につながり、さらに顧客にとってのトータルコストの低減を実現することではないでしょうか。
顧客との直接対話──ボタンを押す過程など、小さなニーズを見逃さない
産業機械の場合は、とくに顧客の側は、商品がどこまでの性能を発揮できるか知識がありません。実際、商品のどこがどうなってくれれば生産性を上げることができるか、品質を格段に向上できるのか、つかんでいない場合が多くなっています。
したがって、顧客のニーズは、現場からあがってきたデータにもとづいて、専門的知識と顧客の立場に立って、メーカーが探り出すべきものです。
つかみ取ることのできるニーズは、実は、非常に微妙なものです。顧客としっかり向き合っていないと、気がつかないぐらいの小さなものであることもあります。
たとえば機械の操作でいえば、ひとつボタンを押す工程が省略できるとか、精度がほんの少しよくなることで、次の工程が省略できたり、安い機械で加工が完了するなどです。
顧客との間のやりとりを通して、そして現場の状況を見て、初めて改善できることが多いのです。顧客の素朴な疑問や、問題提起、困っている様子、それらに答えることが、ヒットする商品開発に結びつきます。この方程式は、過去から将来まで不変です。顧客と向き合い、改善を繰り返すことによって、徐々に、ヒット商品に育てていくのです。
私が工作機械の熱変位補正装置を開発するきっかけとなったのも、海外顧客のクレームでした。当時、まだ会社勤めをしていましたが、切削工具を交換したり、段取りを変更したときに、急に加工寸法が変化するというのです。精度劣化は、カタログにうたわれている精度の10倍を超えていました。
そのために旋盤では、絶えずオペレーターが手動で操作して、不良になる前にプログラムを直して、工具位置を修正していたのです。マシニングセンターでも、自動的に加工を終わったものを、手仕上げで修正を行なっていました。
顧客のいるドイツに行って調べたところ、原因は、機械の熱変位(金属が熱によって膨張する)にあることがわかりました。現地の電気設計者と2人で作業し、熱変位を補正する装置を組み込んで、何とか改善して帰社しましたが、私はこのとき、もし、機械の熱変位を自動で補正する装置を開発すれば、素晴らしい製品に育つと直感したのです。
このアイデアは、企業の中では、奇抜と思われて理解を得ることができませんでしたが、退社して1年後、以前勤めていた会社がこの商品を重要と考えていないこと、開発に着手していないことを確認し、多くの改良を加えて、商品化に踏み切りました。
会社の中にいるだけでは、商品開発はできません。顧客とのかかわりなしには、商品開発も、メーカーも、存在し得ないからです。
顧客の使いやすさを実現して、世界一のNC工作機械メーカーになったM社の事例を紹介しましょう。実は、これは、以前、私が勤めていた会社の話です。
少し昔の話になりますが(私が勤めていた当時の話ですのでご容赦ください)、M社は、1980年代に電機メーカーと共同で、“対話型”という方式のNC工作機械を開発しました。対話式とは、簡単に言えば、コンピューターの質問に答えるだけで、誰でも加工ができるようになるというものです。
かつてNC工作機械は、自由に操ることにかなりの熟練と技術を要していました。加工技術の習得や多くのプログラムコードのソフトの知識など、NC機械の性能を十分マスターするまで、3~5年はかかり、かつ若い技術者出なければ、対応できませんでした。
ところが、対話式NC工作機械が出たことによって、この状況が一変したのです。この対話型NC装置の開発によって、いままでNC工作機を使いたくても使えなかった中小企業の経営者たちが、こぞって対話型NC機械の購入を始めました。
彼らは、長い間、ずっとがまんして、生産性も精度も悪い汎用旋盤等を使ってきたのです。しかし、使いやすい機械が出たことで、自らオペレーターとなって、これまで受注できなかった複雑で精密な加工を行ない、売上げ、利益とも大きく伸ばすことができるようになりました。
多くの工作機械を使うユーザーが、この操作技術を必要としない対話式NCを待ち望んでいたのです。
技術系の人間は、いかに自分の知識を駆使して性能の優れた商品を開発するかを、真っ先に考えがちです。しかし、そこに顧客の使いやすさという視点を加えることで、素晴らしいヒット商品が生まれることを知っておいていただきたいと思います。
品質は事業継続の全て
いかに優れたアイデア商品でも品質上の問題が生じると、まず生き残れません。過去の歴史の中で、これほど品質が重要視されてきた時代はないのではないでしょうか。
たとえば、自動車市場における品質の厳しさは、ほかの産業部門からは想像できないほど徹底したものです。5万個使っている部品に1点異品や未加工品が購入したら、大きな顧客クレームとなって、下請けは、顧客のところに出向かなければならなくなるのです。さらに不良が1点でもあれば、その下請けは、億の単位で弁償が必要な事態も考えられます。
品質管理をどこまで徹底させるか、それが今後の成功につながります。昔から「カタログは一瞬の魅力、品質とサービスは、最大かつ永遠の魅力」といわれています。
相変わらず企業の不祥事が続いています。聞けば、当たり前の判断が、当事者には、できないことが多いようです。売上や利益の低下を恐れて、時として品質をないがしろにしたまま商品を出荷してしまうことがあります。一度、失った信用を取り戻すのは、容易ではないことを心しておきましょう。
昔からある技術を応用して、新たな商品開発に利用する方法もあります。
ボーリングゲーム機のトップメーカーからから立体倉庫へと、販売する商品を大きく変えた会社の例を紹介しましょう。
この会社のコアな技術(核となる技術)は、倒れたボーリングのピンを回収し、並び替えて決められた位置に整然と置くというものです。この繰り返し動作を1度のミスもなしに行ない続けるのです。この30年前に確立されたコアな技術が、現在、市場で大きなシェアをもつ立体倉庫の開発に生かされています。
この会社の立体倉庫では、搬送装置が決められた場所に、部品を乗せたパレットを運び、挿入し、次にその部品を必要としたときは、直ちに搬送車が取りに行き、抜き取って、再び引き出し口に確実にもち帰ります。この技術は、ボーリングゲーム機のコア技術を応用したものです。
このように時代が激しく移り変わっても、以前の技術を新たな時代の流れに乗せて活用することは十分可能です(ただし、新たな技術を導入するまでには、5年から10年の期間がかかるのが通常です)。
顧客の感動の後── 一度心を捉えたら改善一本でいける
顧客に感動を与える商品ほど、開発がむずかしいものはありません。
さらに、感動を与え続けることはもっとむずかしいものです。なぜなら感動を与え続けるには、つねに改善を続けて、新しい感動を提供していかなくてはならないからです。
もちろん、感動を与えるためには、顧客の側にも条件があります。いま使っている商品の問題点に悩んでいて、なんとか改善したいという強い意志をもっているということです。
そこに、要望にピッタリ合った商品が入り問題を解決して、はじめて感動を与えることができます。
自社の商品を入れた顧客に喜んでもらえるのは、メーカーにとって何よりもうれしい一瞬です。一度多数の顧客の心をとらえたなら、あとは品質改善一本で先が見えてきます。
繰り返しますが、大切なのは、顧客がこの製品を使ってみて、感動する姿があるかないかです。少しでも戸惑いや不満が生まれ、その問題をメーカーが即座に解消できなければ、メーカーの経営者がその製品をいかに素晴らしいと思っていても自己満足で終わるでしょう。
③強い営業体制
メーカーの多くは直販店をもたないで、代理店や商社を利用した販売網を敷いています。商品の販売が軌道に乗ってからは、この体制でよいのですが、新規事業を立ち上げたときは、代理店や商社まかせにしては顧客情報を掴むことができません。
新商品の立ち上げ時には、経営者自らがトップセールスを行いましょう。市場の動向をしっかり掴む最良の方法です。商品力の全てを理解することができます。
商社や代理店は、商品が市場に出てからあまり売れる気配がなければ、我慢して販売を続けることはありません。
商社や代理店との提携は、確実に売れる見込みがついてからでも決して遅くはありません。
相手の反応に合わせたプレゼンテーション
あなたは自社の商品について、どんな質問にも答えることができるでしょうか?
いかに素晴らしい商品を開発しても、黙っていて売れるということはまったくありません。もし、ろくに説明もできないで、「とにかく使ってみてください」などというようなら、「販売をやめなさい」といいたいのです。
人は理解できないものには手を出しません。説明不足の商品は、個人では興味で買うこともあるかもしれませんが、企業にはまったく売れることはありません。販売促進のためのプレゼンテーションを行なうときには、機構や構造が複雑で、説明がむずかしい製品ほど、わかりやすく説明する必要があります。
最近は、プロジェクターの発明や改善で、非常に視覚にうったえるプレゼンテーションが増えました。しかし、思いの他、説得力のある商品説明会は少ない。場合によっては、省略して、ビデオを見せて終わりにしているものもあります。
過って、堺屋太一さんの講演を聞いたことがあります。講演の題目は、江戸時代の庶民の歴史の話だったのですが、阪神大震災が1週間前に発生し、その場で、即興で、江戸時代の震災の歴史に切換えて、語りました。原稿も見ず、2時間熱く語り、引き込まれました。視覚にうったえるとき、気を着付けることは、画面を見て、話さないこと、聴衆に心と目を向けて語ることが大事です。
担当の技術者に説明するときとマネージャーに話すとき、また、資材で、説明する時で、皆さんは、内容を変えることができますか?相手の理解度に応じて、分りやすく説明することに心がけることも大切です。
カタログには、とかく良いことばかりが書かれていることが多いようです。一般大衆品では、ルールがしっかりしていて、一覧表スペックに○×が付けられ、誤解を防いでいます。
また、説明書をおいてある店もあります。機械産業では誤解して購入したときは、悲惨です。最も実りの無いクレームは、契約内容の食い違いです。
購入したときの効果を数値やプロセスで、分りやすく説明し、顧客の利益を明確にすることができれば、営業は成功です。説明を聞いて、商談が成立するそんな強い営業ができるようにしましょう。
以上